今日も明日も、マリリン日和

センター負傷棟から救出された雑種犬、マリリン。車いすを軽快に乗りこなすマリリンと、夫と、私。家族の日々の記録です。

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不完全を愛す

正月三が日も過ぎ、世の中がゆっくりと新しい年に馴染み始めた頃、マリリンを夫に預け、久しぶりに電車に乗った。

わりと近くに停留所があることもあり、バスは日常的に使うが、電車はそう機会がない。

普段、ちょっとした買い物や病院を除くと、マリリンに付きっきりの生活なので、ひとりで出かける時間は、それがたとえ憂鬱な用事であろうとも、どこかウキウキと足取りが軽くなる。

その日も、きちんと自らを律していなければ危うく人前でスキップでもしてしまいそうに、新鮮で楽しい気分だった。

電車に乗り込むと、浮き足立つかかとをなだめながら、空いていた座席に座る。

マリリンとの生活を始める前は、電車や人ごみにうんざりすることが多かったのに、それらが今はうれしい存在となってしまうのだから、不思議なものだ。

かずかずのうんざりポイントが、妙な刺激に変わる。



とある駅に電車が停車すると、ひとりの青年が、颯爽と乗り込んできた。

大学生風の彼は、180cm以上であろう長身をピンと伸ばし、毛先を遊ばせた髪を揺らしながら大きな歩幅で歩いてくると、長すぎる足を丁寧に折り曲げ、私のいる7人掛けシートの通路を挟んだ向かいに座った。

正面から顔を見て、びっくり。

つるりと滑らかな陶器のような肌に、整った目鼻が行儀良く並び、なんとまあ、一言で言って、美しいのだ。

最近俳優に復帰されたという水嶋ヒロさんをどこか思わせる、その出来すぎた風貌に、男女問わず車内のみなさん、思わず二度見。

私とヒロさんの間の通路を通る人も、一瞬彼に目をやると、みな一様に、ハッとして立ち止まりかけ、慌てて自分を取り戻し、通過していく。

身に着けるものに至るまで、すきがなく、ザ・オシャレ!という感じ。

マフラーにジャケット、細身のパンツが、どれも非常によく似合っていた。



最初はみなさん穴の開くほど彼を見ていたものの、電車が発車し、しばらくすると、スマホやゲーム、または眠気のほうがよほど興味の対象となるようで、まもなく通常の空気に戻った。

が、私ひとり、目が離せなくなった。

ヒロさんに、というより、ヒロさんの行動に。

おもむろに彼がバッグから取り出した本の表紙に、目が釘付けになったのだ。



『とにかくモテる男になれる本』



驚きのあまり、表紙とヒロさんの顔を行ったり来たり、何度も視線を上下させた。



この人、モテたいの!?

この容姿を持ちながら、それ以上に?

今だって、十分過ぎるほどモテているでしょう?

毎日、何人もの女性があの手この手で愛をささやいているだろうに。



理解の範囲を超え、若干パニックに陥った私の頭の中などお構いなしに、ヒロさんはモテる本に熱中し始めた。

涼しい顔をして読んでいたのが、次第に本を覗き込むように頭を垂れ、まばたきも惜しんで文章を追っている。

こうなると、私の興味スイッチは連打されまくり。

外見と行動のちぐはぐさに、脳内が支配されてゆく。

先ほどまでその世界に入り込んでいた宮本輝さんの小説も、同じページで止まったまま、本の感触だけが手にあった。

主人公の男が打ちひしがれている場面から先へ、進めなくなってしまったのだ。

男が苦しみから解放されるように早くページをめくってあげたいのはやまやまなのだが、いかんせん、モテ本ヒロさんの威力たるや、ハンパなし。

ついにヒロさん、バッグから蛍光ペンを取り出し、ラインマーカーを引きはじめた。



そんなにかい。。。

そんなにモテたいのかい。。。

一体、あんたに何があったのさ。



次第に姉のような気分になってくる。



再びバッグに手を入れるヒロ。

なんだい、違う色のペンでも取り出そうってのかい、と切ない気持ちで見守っていると、手にしたのは、ポケットティッシュ。

次の瞬間、1枚をカッコよく取り出したヒロは、左手で本を持ったまま、右手ひとつで思いきり鼻をかみ始めた。

右手の親指を右小鼻に押し当て、ドビーーー!!!

続いて右手中指を左小鼻に押し当て、ビヒャーーー!!!



呆気にとられるとは、このことだ。

鼻をかむ表現としてよく用いられる、チーンなどといった生易しいものじゃない、モテ本ヒロは。

肺を痛めるんじゃないかと心配するほど思い切った鼻かみで、周囲を圧倒した。

決して本からは目を離さずに。



あんた。。。



切なさに、胸がきゅう、となる。



ちょいとあんた。。。それだよ、それ。

それをまず、おやめなさいな。

周囲に意識を置かぬ大胆さから察するに、ほかにも何かしらありそうな気もするけれど。

まずはさ、まずは、片手ドビーーー!!をおやめなさいな。

話はそれからだよ。



そう声をかけてやりたい衝動をぐっとのみ込み、目的の駅で電車を降りた。



きっと、ヒロのその不完全さを愛おしく包み込む素敵な女性が、いつか現れるだろう。

ホームを満たす都会の殺伐とした空気の中、胸の奥にほのぼのとした温かさがにじみ、雑踏へ大きく一歩、踏み出した。






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「Mr.Childrenも『Hallelujah』の中で、歌っているよ。“優雅に暮らしていこうとするよりも、君らしい不完全さを愛したい”ってね。」




| つれづれ | 10:08 | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑

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