今日も明日も、マリリン日和

センター負傷棟から救出された雑種犬、マリリン。車いすを軽快に乗りこなすマリリンと、夫と、私。家族の日々の記録です。

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ちっちゃいおじさんのこと

先日、RAIN DOGS CAFEのマスターより、ひとつの作文を教えていただきました。

夏の甲子園優勝を果たした大阪桐蔭、その主将を務めた中村誠選手が、中学3年生のときに書いた作文だそうです。

「友から学んだこと」

どういったページのリンクを貼れば良いのか分かりませんので、ここには貼りませんが、ご興味のある方は検索してみてくださいませ。

子どもの時分に出会った友人がきっかけとなり、私は「かわいそう」という言葉のことを、深く考えるようになりました。

以前、こちらの記事で綴っております。

小学生だったあの頃、全身で感じ、全身で考えた思いは、胸底に根を張り、大人になった今も変わらず、私を支えてくれています。

それと同じ思いを、中村選手も抱いていたようです。

作文の文字を追うごとに、友人の向日葵のような笑顔が思い起こされ、ぐしゃぐしゃと目をこすりながら、やっと最後まで読みました。

彼の作文に出会えたことを、深く感謝いたします。





          





さて、今日は、ちっちゃいおじさんのお話。



その朝、めずらしく頭痛はなかったものの、やや熱っぽく、どろりと重たい倦怠感が身体を支配し、布団から出るのに難儀した。

4年に1度の電気点検の日だったので、時間が気にかかる。

ちらりと時計を見やっては、動かぬ身体に嘆息し、また目を伏せた。

「母ちゃんや、メシはまだかい」と志村けんばりに迫ってくるマリリンの視線が、たいそう痛い。



8時近くになって、ようやく布団を這い出た。

休み休みしながらマリリン関連をこなしていると、あっという間に時間が過ぎる。

まだ顔も洗っていない。

汗でべたつき、気持ちが悪かった。

時計を見ると、まもなく9時になろうかというところだ。

電気点検の担当者は9時~10時の間に来るということだったが、なんとなく、9時ちょうどにピンポンということはあるまい、と思い、顔を洗い始めたら、9時ちょうどにピンポンと鳴った。

頭にはヘアーバンドを巻きつけ、顔じゅう泡でいっぱいだ。

急いで2~3度流したものの、それだけでは足りず、少々あわあわさせた状態で、玄関扉を開けた。

60代くらいだろうか、華奢な体躯のちっちゃいおじさんが、作業着姿に脚立を抱え、人の好さそうな笑みを浮かべて立っていた。

「電気点検ですぅ……、お忙しいところ、どうもすみませんねぇ」

「あ、いえ、こちらこそ、失礼な格好ですみません。顔をちょっとアレしたところだったものですから」

そこへ、ボッ!と低く警戒吠えを漏らしながら、マリリンが加わった。

私の足もとをすり抜け、おじさんと対面する。

瞬間、おじさんから、すうっと笑みが消えた。

「あ、ごめんなさい! 犬、苦手でいらっしゃいますか!」

慌ててマリリンを抱き上げようとする私を、おじさんの手が制した。

「いやぁ~、ちょっと……。う~~~ん……」

そう唸ったきり、やや顔を歪めて、じっと彼女を見おろしている。

マリはマリで、ぴくりとも動かず、吸い寄せられるようにおじさんを見あげている。

私ひとり、洗顔のことで頭がいっぱいだった。

早く泡を流しきりたい。

早く化粧水をつけたい。

ふいに、おじさんがつぶやいた。

「蹴られたね、昔」

「え?」

「相当ね」

「何がですか?」

問い掛けるも、私には一瞥もくれず、マリリンから目を離さない。



今思えば、おかしな会話なのだ。

私は、彼女の背負うもの、いわゆる保護犬であるとか、背骨が折れているであるとか、それらについて一切口にしていないのだから。

けれども私は、とにかく洗顔で頭がいっぱいだった。

脳は完全に別の場所を漂い、その場の会話を分析する余裕がなかった。

マリリンのおむつ姿や、ひょこひょこ下半身を引きずって歩く様子を見て、「どうしたの? 歩けないの? 交通事故?」と訊かれることはとても多い。

なので、ちっちゃいおじさんの言葉も、深く考えないまま、その中へ乱雑に放り込んでしまったのだ。

早く泡を流したい。

だんだん目に沁みてきた。



深刻な顔をしていたおじさんが、ふっとマリリンに笑いかけ、ようやく私のほうを見る。

「えっと、ブレーカーの場所は、どちらでしょう?」

「はいはい! さ、こちらへどうぞ」

待ってましたとばかりに、おじさんを案内した。

すっかりなついたマリリンが、ぬいぐるみを口にくわえ、いそいそと後を追う。

その隙に、私は泡を流し、化粧水をつけることができた。

やれやれ、すっきりだ。



おじさんは、チェック箇所を丁寧に検分してくれた。

かと思うと、うっかりスイッチに触れ、バチンッ!と家じゅうの電源を落とすというおっちょこちょいぶりも披露。

漫画のように慌てふためく様子は、和やかな笑いを誘った。



帰り際、靴を履きながらマリリンを見つめ、

「幸せになったのか。良かったなぁ」

そう言い残し、にこにこと去って行った。



見送った後、扉を閉めたところでふいに、一連の妙な会話が胸のうちをめぐった。

あれ?

私、この子が保護犬とか言ったっけ?

背骨が折れていて、その原因はわからないとか、そういうこと言ったっけ?

“蹴られた”なんて限定は、ちょいとピンポイント過ぎないかい?



よく話に聴く、動物と会話をするハイジなる女性のことが頭をかすめた。

動物番組を観ないので詳しくは知らないけれど、世の中には、私などの想像も及ばぬ不思議なことが、おそらくあるのだろう。

ただ、言っちゃあなんだが、というかほとんど偏見だが、あのちっちゃいおじさんと特殊能力とは、まるでイメージが結びつかない。

謎が残るばかりだ。

なんだか、泡と化粧水に気をとられている間に、私ひとり、大事なものを見落としてしまったような気がしてならなかった。



あの人は一体、何者だったのだろう。

ハイジ的なアレの持ち主か、ただのちっちゃいおじさんか。

ほんとうのところは、マリリンだけが知っている。



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