今日も明日も、マリリン日和

センター負傷棟から救出された雑種犬、マリリン。車いすを軽快に乗りこなすマリリンと、夫と、私。家族の日々の記録です。

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坊ちゃんアレルギー

と言っても、私が坊ちゃんにアレルギーを起こしたのではない。

坊ちゃんを突如襲った、正体不明のアレルギーの話だ。



長野から戻り、しばらく頭痛とめまいに見舞われていたのが、だんだんと鎮まってきて、ようやく生活を取り戻しつつあった、ある日の暮れ方。

ちょっとした作業をしていると、昼寝をしていたマリ坊が、定位置であるテーブルの下から這い出てきた。

起きた~? と声をかけながら、視線は手もとの読み物へ据えたまま片手を伸ばし、頭を撫でる。

おむつ替えをしようかと、作業に区切りをつけ、改めてマリ坊のほうに目を向けた。

あれ?

何かちょっと、口のまわりが腫れてる……?

間近に見ると、少々赤みを帯びて、唇ぜんたいがもったりしている感じがした。

病院が頭をよぎるのと同時に、車のことがよぎった。



以前にも書いたことがあるけれど、私は免許取得後、10数年運転から遠ざかっていたペーパードライバーだった。

そしてある時を境に、一念発起し、何とか運転できるようになろうと、週末に夫の指導を受けている。

第一に、夫のいない平日、緊急でマリ坊を病院に連れて行かねばならなくなった時、私ひとりで任務を遂行できるようにするためだ。

せっかちで荒っぽい運転マナーにたじろぎ、幾度も泣きそうになりながら、根気強く練習を重ね、近頃では一応、人並みの運転はできるようになった。

が、夫の指導は非常に厳しく、人並みでは許されない。

とりわけ危険予測に対する要求はたいへんなもので、あらゆる場面のあらゆる危険をすべて予測できると言いきれない私は、まだ真の合格をもらえていない。

夫が家にいる時、ごく近所の店までひとりで往復してみたことはあるにはあったが、マリ坊を乗せて私だけで、というのは、まだ経験がなかった。



困ったな、どうしよう……。



とりあえず、ネットで少し調べてみた。

急に口まわりが腫れてくる病気として代表的なものは、歯周病などの歯関係と、アレルギー。

その時点では、アレルギーは該当可能性が薄いように思えた。

なぜなら、いつもと違う食べ物はあげておらず、雨が降ったり止んだりで散歩も行っていない、その日は夕方までひたすら部屋で寝、時折気まぐれに窓辺の監視業務に勤しんでいたくらいで、変わった行為を何ひとつしていなかったからだ。

この辺りの無知を、私は後に大反省することになる。



一方、歯の病気については、思い当たる節がありすぎた。

もともと、この子の歯は獣医さんらも首を傾げるほど状態がひどく、避妊手術の際、一緒に処置してもらった経緯がある。

現在は、日に3度の食事の都度、歯みがき用品を使ってケアしている。

それでも、ひとたび歯石取りをするとかえって歯石が付きやすくなるというジレンマ的な仕組みの表れか、もしくは何かひどい状態だった頃の名残があるのか、あるいは単なるそういう体質か、いまいち判然としないが、ケアしても、ケアしても、なかなか良い状態を保つことができずにいた。

そのため、歯周病から来る歯肉炎などを起こしたとしても、何ら不思議でない。

どころか、早晩それはやって来るだろうと、覚悟さえしていた。

この歯関係というのはたいへん厄介で、歯周病等を発症してしまうと、全身麻酔で抜歯しない限り、炎症が頻発し、悪化の一途をたどることが多い。

抜歯を選択しないのならば、抗生剤等で対応しつつ、最大限苦しみを取り除いてやる方向で、あらゆる策を練らねばならない。



明日は休日だから、みなで朝から病院だな。

先生とじっくり今後の対策を話し合わないと……。

歯の病気の困難さを思い、ある種の決意を持って考えをめぐらせていると、マリ坊が、ブルブルッ、ブルブルッと、ほとんど自棄を起こしたように、繰り返し頭を振り始めた。

ちょっと見せて、と顔を覗き込む。

ひぃぃぃ~!!

わずかな間にさらに腫れてきてる!

これは一体……。

私は、「慌てるな、まず記録!」と頭で唱え、手早く写真を撮った。

これまで、この子に降りかかったかずかずの病気を前に必ずそれを行ってきたことが、いつか習慣となり、夫の冷静な呼びかけがなくとも、身体が反応したらしい。





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「ちょいと、口に何かが付いてるんだよ。どうにかしとくれよ……」





その日、夫は夕方から夜にかけて、代わりのきかない重要な仕事が入っており、帰宅が深夜になることがわかっていた。

連絡したところで、帰って来られるわけではないし、過剰な心配をかけ仕事の邪魔をするだけだ。

もう迷っている場合ではなかった。

いま出れば、診療時間内に十分間に合う。

まさにこういった時のために、これまで運転の練習を重ねてきたんじゃないか。

パーカーを引っ掴み、マリ坊の外出セットを抱え、お金を用意、家じゅうの戸締まりを確認すると、夢中で玄関を飛び出した。



すでに濃い闇が辺りに重く垂れ込めていた。

マリ坊と荷物を車に乗せる。

近くの家の開け放たれた窓から、いつもの子どもらの、いつものにぎやかなはしゃぎ声が聴こえてきた。

いつもと同じということが、何か妙に心強く感じられ、涙が込み上げた。

自分は冷静であると思っていた。

ひとつひとつのことを冷静に、着実に進めていると思っていたが、玄関の鍵に何度も車の鍵を当てていたあたり、やはり動揺していたのだろう。

そうこうしているうちにも、見る間に腫れは広がり、目もとから耳の付け根にまで及んで、この時すでに顔ぜんたいが変形し始めていた。

慌てている時こそ、運転には細心の注意を払わねば。

しかも私は、マリ坊を乗せて初めて、ひとりきりでそれを行うのだ。



教習所における路上運転さながらに、人や動物がいないか、前後左右、車の下まで点検する。

運転席に乗り込み、ハンドルを握ると、その手がガクガク震えていることに気がついた。

いったんハンドルから手を放し、縮こまった喉を無理やり押し広げ、ひとつ深呼吸する。

マリ坊は、クレートの中でしきりに頭を振っていた。

エンジンをかけると、おなかの辺りがすうっと落ち着いた。

降り出した細い雨に、ワイパーを作動させる。

横たわる闇をライトで払いのけ、静かにアクセルを踏んだ。

馴染みの道の、馴染みの標識を、改めてすみずみまで確認する。

対向車のライトがいやに眩しい。

何か過ぎ行く車がみな、私の運転を監視しているように感じた。

飛び出しがないか、次の展開で予測される危険は何か、頭と目で考える。

きんっと音のするような集中が車内に張りつめていた。

これまで学んだ危険予測のすべてを押さえながら前進し、ついに車は病院の駐車場へすべり込んだ。

我ながら、夫に二重丸をもらえるような運転だったのではないかと思う。



車を停めると、受付に順番を取りに走った。

平日の夜と言えども、待合室は診察待ちの方がそれなりにおられ、マリ坊が診てもらえるのは、まだかなり先になりそうだった。

ちょうど出てきた看護師さんに、状況を話す。

「口もとが腫れてきて、その後みるみるうちに顔ぜんたいに腫れが広がって……」

震えてうまく口がまわらない私の説明を、彼女は瞬時に把握してくれた。

一緒に駐車場へ走り、車で待っていたマリ坊の状態を確認。

「緊急性のある場合がございますので、すぐに先生の判断を仰いだほうがいいと思います」

そう言うと、慣れた手つきでマリ坊を抱え上げ、院内へ戻った。

私は彼女のテキパキとした行動を、すがりつくように見ているしかなかった。



マリ坊が診察室へ入ると、全身が震えてきて、立っていることができず、すぐそばにあった椅子の背もたれを掴み、倒れ込むように座った。

後悔しかなかった。

緊急性があったかもしれないのに、無知と浅慮からアレルギーの可能性を早々に除外し、私は呑気に歯の病気など調べていたのだ。

結局こうして車で駆け込む決心がつけられるのなら、いちばん最初に口もとに腫れが生じた時点で、その時点で、なぜ私は決心をつけなかったのか。

あとからあとから目尻に涙がもり上がり、ぼろぼろとこぼれ落ちた。



「だぁいじょうぶ」

ふいに、左の耳へ、静かな声が来た。

震えながらカクカクと顔を向けると、隣の椅子の、シーズー犬を抱いたおじいさんが、笑顔で頷いていた。

「だぁいじょうぶ、だぁいじょうぶ。落ち着いて」

その穏やかな声と、やさしい笑顔に、私の目からはいっそう涙が落ち、一方でたとえようのない心強さに打たれ、それから震えは徐々におさまっていった。

代わりに、母としての責任と覚悟が、身体の内に凛と立つ。



それから間もなくして、ぼってりと顔をふくらませたマリ坊が、先生に抱えられ、姿を現した。

診断結果は、アレルギー。

緊急性は回避された。



いつもと違うものを口にしていないこと、特に変わった行為をしていなかったこと、その他諸々の状況判断から、おそらく食物ではなく、何かの化学物質が原因ではないか、ということだった。

例えば洗剤の成分であったり、例えばカーペットや家具の何かの成分であったり、日常的に人間が使用するものに含まれるあらゆる化学物質が、犬にとってはアレルギー症状を引き起こす要因となり得る。

普段は何もなくとも、免疫力が低下している時など、突如、身体が反応を起こすことがあるのだと言う。

何の成分、何の化学物質に反応したのかを特定することは、ほとんど不可能に近い。

ひとまず今回は、注射で鎮静化させることになった。

今後また起こらないとも限らないが、免疫力低下等の要因がそろった時に発生すると予測されるため、そう頻繁なことではないと考えられ、何か治療をしていくという必要は、今のところはない。

仮に頻発する場合は、さまざまな選択肢を考えてゆく。

先生がおっしゃったのは、そういった内容であった。



秋口、気温が下がってくるとアレルギー症状を起こす犬が増えるらしい。

その話になった瞬間、思わず先生の目を凝視した。

先生もこちらを見、私の頭に浮かんだことを見通すような顔で、大きく頷いた。

「マリリンちゃんは、去年も寒くなるにつれて、だんだん不調が増えましたよね」

あの冬のキリキリした胸の痛みが、一気に思い起こされた。

マリ坊に残されている神経が不具合に陥り、奇妙な色をした下痢が止まらず、体重が落ち、一時は歩くこともままならず、寝ても覚めても不安のまとわりつく日々が延々と続いた。

明確ではないが、おそらく寒さが原因であろうと言われていた。

今年も夏が過ぎ、涼しくなってくるとともに、てんかんと下痢に対しては注意を払っていたけれど、こんな具合に脇から突いてくるとは……。

短い秋の向こうで、すでに準備運動を終えているであろう冬を思い、今年はどうなるのだろうかと不安が胸を往来する中、マリ坊は注射を打たれ、診察が終了した。



ひとまずの安堵に身をゆだね、マリ坊を車へ運び、会計に戻る。

迅速に対応してくださった先生とスタッフさんたちに、心からのお礼をお伝えし、その帰り際。

どうしても一言お声をおかけしたく、先ほどのおじいさんのほうへ行き、お礼を言いながら、シーズー犬を撫でさせてもらった。

「この子はね、数か月前に捨てられた子なんだよ」

突然の言葉に、はっとおじいさんを見た。

「ほんとですか!? うちの子も保護犬なんですよ」

今度はおじいさんが、驚きに目を見開いた。

マリ坊が待っているので、わずかな間のことだったけれど、シーズー犬の抱える事情を聞いた。

病名は伏せるが、重い病を発症し、治療してやれないからと飼い主さんに捨てられてしまうことになり、それを聞きつけたおじいさんご一家が、その子を引き取ったのだそうだ。

そしてご家族は、病院で手術を選択し、成功。

現在も根気強く治療を続けている。

おじいさんは言わなかったが、おそらく経済的な負担はたいへんなものであったろうし、素晴らしい日々であることには違いないはずだけれども、当然そればかりではなかっただろうとも思われる。

おじいさん一家へのあらゆる想像が、一瞬のうちに身体じゅうをめぐった。

確かにここに、救われた命がある。

そのことが、穏やかな顔でおじいさんに抱かれるシーズー犬の、これ以上ないほど幸せに満ちた瞳の中に映し出されているように思えた。

マリ坊のアレルギー騒動で神経が昂り、少し興奮状態だったこともあるだろうか、「よかったねぇ~、よかったねぇ~」とシーズー犬を撫でながら、みっともないくらいに涙をこぼした。



そして再び、教習所並みの安全運転を心がけ、車を走らせる。

家に着き、玄関を開けた瞬間、圧倒的な疲労が来た。

うずくまる私のまわりを、すっかり元気を取り戻したマリ坊が、はしゃいで飛びまわる。

顔の腫れは、先生のおっしゃっていた通り、注射を打ってから見る間にひいてゆき、家に帰り着く頃には、いつものシュッとしたマリ坊に戻っていた。





CIMG6819_R4.jpg
↑目の腫れの、かすかな名残



2014年秋。

坊ちゃんはまたひとつ、新たな世界を体験したようです。



そんなこんなで母ちゃんは、ひとまず力尽きました。




| つれづれ | 07:19 | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑

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